ピーター・シムプル

浮世離れしたものが読みたくなったので本棚から引っ張り出してきた。18 世紀初頭、士官候補生として英国海軍に入ることになったシムプル君の成長を描く海洋小説。5 年くらい前に復刊した岩波文庫だ。上中下と 3 巻あるが、上巻の初版は1941年だからもちろん旧かな旧漢字。太平洋戦争が始まった年ですね。それを 60 年経って増刷する岩波も岩波だ。
ストーリーは多少ご都合主義的だが、一族の大馬鹿者として海軍にやられたシムプル君がさまざまな経験を経て貴族の座につくまでの波乱万丈がなかなか楽しい。翻訳もべらんめえ調というか落語風というか、今の翻訳家ならこうは訳さないだろうという特徴的な文体で、これはこれで船乗りの雰囲気がよく伝わってくる感じがする。活版で組まれた字面と相まって実に雰囲気がいい。