手術

夜中物音で何度か目が覚めたせいであんまりよく眠れなかった。術衣(つか、単なる浴衣)に着替えて待っていると看護師に呼ばれたので手術室まで歩く。やはりここはやはりストレッチャーで運ばれたいところだ。間抜けでしょうがない。くるぶしに埋まっているボルトを抜く簡単な手術だからしょうがないといえばしょうがないんだが。
手術室に入るとやたらに愛想のいい麻酔医のおじさんに出迎えられて手術台に上る。腰椎からの麻酔ということで海老のように体を丸めた上で背骨に注射針が通されるわけだが、実はその前の局所麻酔のほうがちょっとイヤだ。薬液が入ってくる瞬間に体がビクッと震える。で、程なくして背骨にゆっくりと針が入ってくる。当然痛くはないが、針が折れたりしたらと思うと気分はあまりよろしくない。研修医らしき若い医者は「怖くないですから」といってくれるが、さすがにねぇ。
どうやら麻酔が効いてきたようで、足の感覚がしだいになくなってくる。メスの入る左足の方が先に動かなくなったが、両足の痛覚がなくなったところで手術が始まったようだ。痛覚はないが足を持ち上げたり動かされたりする感覚はわかる。ので、ボルトが抜かれる感覚もわかってしまった。一本目は割とすんなり行ったようで、ネジ山が骨から抜ける感じがぐっぐっぐっぐっと 4 回リズミカルに続いた。どちらかというと二本目のほうが大変だったようだ。足を持ち上げられたり押さえられたりしながら、じわじわとボルトが骨から抜けていくる感じが伝わってきた。胸の前に布がかかっていて足のほうは見えないが、ふと脇に目をやると機器のディスプレイに手術中の様子が反射して、なんとなく何をやっているかわかる。やがて金属が転がるような音がして、ボルトが抜けたことがわかった。
あとは縫合。3 針か 4 針か、糸を結んで切っている様子がわかる。程なくして縫合も終わり、無事に手術が終了。手術室に入ってから 1 時間半くらいかかったようだ。抜いたボルトをどうするかと医師に訊かれたので、ください、とお願いする。
今度はさすがにストレッチャーに乗せられて病室へ。麻酔が切れるまでじっとしているしかない。左手には点滴も入っているので身動きがとりにくい。ラジオを聴いていたら滑ってベッドから落ちてしまい、次に看護師が来るまでそのまんま。昼飯も食えないので腹がぐるぐると鳴っている。暇をもてあますあまり文藝春秋数独をやってみたりするが、手元にボールペンしかなくしばらくやっているうちにペンが書けなくなってしまい断念。
30 分くらいおきにナースがやってきて体温と血圧を測っていくが、しきりに尿が出ないかどうかを聞かれる。尿器がベッドサイドに置いてあるが、下半身の感覚がないとなかなかできないものだ。右足からだんだん感覚が戻ってきて、次に左足。局部の感覚が戻るのは実は一番最後だ。やっとのことで尿器を使ってみたところ、これが実にとめどなく出てきて、いつ溢れ出すかという恐怖に駆られつつ放尿する羽目になった。ナースが次に来たとき、「すごーい! 700cc もあったよ」といわれたが、こういうのはどう答えたらいいものか実に返答に困る。
3 時前になって水を飲むことが許され、6 時前には夕食。24 時間ぶりの食事は厚揚げと海老の煮物。前に入院したときよりはなんとなく飯がうまくなった気がする。味が薄いのはいたしかたないが。
午後からひどい雷雨なので今日は Y はこないようだ。食後横になっていると点滴が終了。呼ぶのも面倒なのでそのまま横になっているが腰が痛い。1 時間ほど待ったところでナースが現われたので点滴を抜いてもらい、着替えて外に出て Y に電話する。明日は山梨に走りに行くとか行っている。昨日の Giro は Basso が勝ったらしい。
さて 10 時の消灯の時間になったが今日も昨日以上に寝付けない。隣の親父はどうやら隠れてタバコを吸っているらしいし、向かいの親父は出歩くのでうるさくてしょうがない。ラジオを聴いてやっと眠りについたのは 12 時過ぎ。