蕎麦といで湯の信州ツアー #2

トーストの朝食を食べて出発。カーボローディングの観点からはご飯の方がいいんだけれどまあ仕方がない。
飯山の街を抜けて山に入っていく。けっこう気温が上がってきて長袖ジャージでは暑くなり半袖になる。今日は R292 から奥に入った富倉蕎麦を食べて一旦新潟側に抜け、長野に戻ってくるという寸法。
県境が分水嶺になっていると思っていたのだが、地図をよく見ると全く違っていた。トンネルを抜けるとしばらく下りで寒いくらい。あわててウィンドブレーカーを着込む。しかし富倉の集落までは登りになっている。10% は楽勝で超えていると思われる坂を登り、10 時半過ぎに富倉の集落に到着。目指すはしば食堂は食堂とはいうものの見かけは民家そのものであって、案内を請うと婆さんに座敷に通された。どうもぼくらが今日最初の客だったらしく誰もいない。蕎麦と笹ずしを頼んでお茶を飲みながら浸し豆や蕗の薹などのおかずをつまんでいるうちに蕎麦が来た。噂どおりつるりとした喉越しなのにコシが強く美味い。こんな蕎麦は食べたことがない。客がいないせいか婆さんも暇らしく蕎麦の説明をしてくれる。オヤマボクチというヤマゴボウの葉の繊維をつなぎに使っているのでコシが出るんだと言う。蕎麦を食いながら婆さんと話をしているとなんだか親戚の家にでも来ているような感じだ。
食べ残した笹ずしを包んでもらって出発。国道に戻ってしばらく行くと信越国境だが特に坂とかあるわけでもなく道の途中が県境なのでやや拍子抜けする。川沿いの風景がなかなか気持ちいい道だ。
下り基調の道をしばらく楽しんだところで長野側に戻る分岐に出る。今度は平丸川沿いを遡って長野県に入り、平丸峠を超えて飯山に戻ることになる。しばらく緩やかな登りが続き、ふと振り返ってみると妙高の山が見える。ちょっと雲がかかっているがなかなか雄大な眺めだ。
途中の白岩清水という水場で水を汲み(かなりミネラル分の多い硬い水だった)集落の農協でトイレを借りて集落を抜けると冬季通行止の看板が目に入った。しかし完全に道が封鎖されているわけでもなく、とりあえず行けるところまで行ってみることにする。傾斜が大分きつくなり、高度もそれなりになってきたところで路側に雪が目立つようになってきた。岩を穿って川が流れているびょうぶ岩という奇岩のところで休憩。ここの登りがきつかった。さらにしばらく登ると木曾清水という湧き水がある。なんでも木曾義仲が軍勢を進めたときに飲んだ水だという話。こっちはさっきの水よりマイルド。
林の合間を進んでいくと雪が路面にも見られるようになってきた。数センチくらいの積雪であれば乗ったままで大丈夫だが、木陰では 30cmくらい積もっている。さすがに自転車を押さざるを得ない。まあ高度からしてせいぜい 2km くらいで峠のはずなので引き返すには及ばないと判断、強行突破を図る。以前会津の峠で残雪の上を押して歩いた経験もあるし。いったん 200m ほど押したところで雪が消えたが、今度は路上に木が倒れていて杉の枯葉が路面を覆っている。倒木まであっては車でも通れないね。
さらに進むと 50cm くらい積もっているところがあったがかまわず押して歩く。と、100m くらい先から向こう側は除雪されているのが見えた。この峠は他に分岐はないから、長野側からはずっと除雪してあるということだ。ということはこの辺が県境ということか。と思いつつ除雪された路面に出ると、県境の標識があった。峠の頂上まではもう少しあるが、ここまで除雪されているということは後は普通に走って上れるということなので一安心。昼飯を食うことにする。
おにぎりを食って水を飲んでいると向こうから名古屋ナンバーのバンがやってきて雪のあるところで止まった。引き返すのかと思って見ていたら長靴をはいた男性二人が車から降りてなにやらやっている。風体としては地質調査とかそんな感じだが、今この時期にやることかねぇ。
ぼくらがゆっくり飯を食っている間に件の車は道を引き返していった。
後は除雪されているとわかってみれば気は楽だ。エネルギー源をチャージしたので峠まで登る。といっても距離的にも勾配的にも大したものではない。勾配がゆるくなったところで池が見えた。水面は凍っている。おお、すばらしい風景を二人占めだ。新潟側から自転車での平丸峠超えはぼくらが最初だろうと思うとなかなかいい気分だ。湖畔になにやら看板があるので見てみると、「この付近はカタクリの花が自生し、蜜を求めて○○チョウや△△チョウが…」これですっかり腑に落ちた。どうやらあのバンの二人連れは蝶のひとたちだったらしい。
ほどなくして峠に出た。ウィンドブレーカーを着込んで下りに入るとものすごい風景が目に飛び込んできた。飯山線沿いというか千曲川沿いの景色が素晴らしい。昨日行った菜の花公園や野沢温泉のあたりも良く見える。なにせ木やガードレールのような視界を遮るものがほとんどないので、空中を浮遊しているような感覚に捉われる。こんな飛翔感を得られるダウンヒルは初めてだ。
と、斜面にカタクリの花が咲いているのに気づいた。これなら確かに蝶が集まってきそうな感じだな、と思って写真を撮ったが、下っていくにつれカタクリの花が増えてきた。まさに峠の斜面一面がカタクリの大群落。関東近辺では珍しいカタクリの花だが、この辺はどうもそんなことはないらしい。写真を撮りに来ている人も多い。一生分のカタクリの花を見た感じだ。
気持ちいいダウンヒルを終え、どうしようか考える。時間的に野沢温泉に行っても大丈夫そうなので、千曲川沿いから温泉を目指すことにする。戸狩野沢温泉駅のあたりから飯山線に沿って国道の対岸の県道を進む。平坦で車も少なくいい道だ。湯滝橋を渡り湯沢川を遡って温泉まで約 200m の登りだ。勾配はそれなりにあるがせいぜい 4km ほどなのでゆっくり登っていく。Y は前来たときにこの道を下ったことがあり、そのときは登りが大変そうだと思っていたらしい。しかしいざ登ってみたらそうでもないという話。
今日は熊の手洗湯という外湯。自転車を源泉の脇に止めて入る。この外湯は野沢温泉では湯温が適温の状態で噴出しているそうで、入ってみると確かにちょうどいい感じ。昨日の真湯は緑色だったがここは透明な湯だ。
程よく茹だったところで昨日と同じ道を戻り YH へ。今日も飯を食ったらあっという間に寝てしまった。